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これまで、海からエネルギーを取り出す方法としては、波の高さを利用した波力発電や、潮の流れや満ち干きを利用した海流発電(潮力)、その他に揚水浸透膜温度差などが考えられてきました。

 

今回紹介する発電方法は、これまでとはまったく違った新しいやり方で挑戦しようとしています。

 

混合エントロピーバッテリー

サウジアラビアの「アブドゥラ国王科学技術大学(KAUST)」は、アメリカの「エネルギー省(DOE)」と共同で、淡水と海水を使って発電できる「混合エントロピーバッテリー(mixing entropy battery)」を開発しました。

 

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淡水と海水を両方とも使うから”混合”エントロピーバッテリー!?

どんな特長を持っているの?

ひとことで言うと、水に含まれる塩分の濃度差(浸透圧)を利用した発電方法です。

 

たとえば、川の河口付近に設置することで、川の水と海水を使って発電することができます。また、海水と淡水を入れ替えるだけで、繰り返し発電を行うこともできます。

 

どうやって発電するの?

海水には、水酸化物イオンとナトリウムイオンが含まれています。このイオンを上手くコントロールすることで電気を取り出しています。

 

従来の方式:Blue Energy

従来の方式「Blue Energy」では、塩水と真水のあいだに特殊な膜を使っていました。

 

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中央の塩水と両側の真水の間に膜がある(水酸化物イオンは左、ナトリウムイオンは右へ)

 

海水が膜を通過すると、それぞれのイオンを含んだ2種類の水が出来上がります。

 

この2つの水は、片方がナトリウムイオン水(Na+)、もう片方は水酸化物イオン水(OH-)なので、両者のあいだには電位の差が発生します。これが電池であり、発電装置でもあります。

 

ただし、イオンを分離するために必要なイオン分離膜の値段が高く普及には至りませんでした。

 

新しい方式:Mixing Entropy Battery

新方式は、膜のかわりに2つの電極(プラスとマイナス)を使います。

 

ひとつは、二酸化マンガンの電極で、ナトリウムイオン(Na+)に反応します。

もうひとつは、銀の電極で、こちらは水酸化物イオン(OH-)に反応します。

 

二酸化マンガンは、とても安く、環境にも優しく、高いエネルギー密度を持っています。

 

2つの電極を淡水に沈めて、海水へ入れ替えると電極間でイオンの移動が行われ、電流が発生します。さらに、海水と淡水を交互に入れ替えていっても、同様に電流が発生します。

 

この方式を、「混合エントロピーバッテリー(Mixing Entropy Battery)」と呼びます。

 

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淡水と海水を交互に入れ替えていくことで充放電を繰り返し行うことができる

 

エントロピーってなに?

エントロピーとは、物がよく混ざりあっている状態(均一性がとれている)ほど高い値になり、物が分離しているほど低い値になります。

 

つまり、海と川で海水と淡水それぞれが分離しているとエントロピーは低く、河口付近で海水と淡水が混ざりあっているとエントロピーは高くなっています。

 

そもそもエントロピーとは、低いところから高いところへ(分離から均一へ)は自然(エネルギーを必要とせず)に変化しますが、その反対は決して起こらないとされていて、エントロピーの法則として広く知られています。

 

どれくらい凄いの?

発電効率は75%で、海水と淡水の入れ替えを100回以上おこなっても効率が低下しないことを確認しています。また、電極間の距離を近づけることでより高効率化を図れるとのことです。

実験には、カルフォルニア州の海岸の海水(塩水)と、湖の淡水(真水)を使用しました。

 

1箇所から沢山のエネルギーを生み出せませんが、1秒間に40立方メートルの真水が流れていれば、100MW(メガ・ワット)の電力を生み出すことができると試算しています。

 

また、ナイアガラの滝は毎秒1800立方メートル流れていて、世界中を見渡せば、約2TWのエネルギーを生み出すことも可能だそうです。

 

とはいっても、私たちのエネルギー需要からすると全く足りません。ですが、この方法は24時間稼働できるため、再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電、バイオマス発電、地熱発電など)の一つとして成功できると考えています。

 

河口付近は海水と淡水が混ざり合っていて常にエントロピーが高いんだけど、これを位置エネルギーに置き換えると約200mになるそうです。すべての河口に200m級の滝があると思うと、結構大きなエネルギーが見えないところで存在していたんだと実感しました。